私の小倉台日記

■プロフィール
勝山朗子(かつやま・あきこ)
  小説家、エッセイスト。房総文化懇話会会員。文学サークル『槙』同人。共著に『千葉児童文学選集』『槙・文学選集1・2・3』『何がそんなに…』など。千葉市在住。


うちのお嬢さま


 朝、台所にいると猫のコマがしきりに鳴いている。時には高い声で時には低い声で鳴きながら私の周りをうろうろしている。

 「なぁに?何て言ってるの?」私が聞くとコマはじっと私の目を見ている。獣医が「いい目をしている」と褒めた目だ。大きなまん丸な琥珀色の瞳。サバ猫。三歳。私を促すように体をくねらせて前を歩く。振り返りながら洋間のドアの前で、もうひと鳴き。「開けてって言ってるのね?」聞くと、そうだと言わんばかりだ。「はい、はい、お嬢さま」私はコマのしもべの如く言いなりになる。

 洋間の雨戸を開けると、待っていたようにパソコンのデスクトップの上に跳び乗る。そして庭を眺める。デスクトップから一メートル上の欄間に飛び上がることもしばしばだ。

 コマと私はお互いの言葉がどのくらい通じ合っているだろう。今のように離れた場所のドアを開けろと言うのと、このドアを開けろと言うのでは意思表示が違う。目の前のドアだと、コマは背伸びをしてノブの近くまで自分の両手を近付ける。また、餌が欲しいときは鳴き声が違う。甘えた声でひっきりなしに鳴く。「ご飯?」と聞くとニャアニャアと鳴いていた声を止めて「ゴァンゴァン」と言う。うそだと思うかもしれないが、これは本当だ。

 コマの要求は、このほかに「遊んで」と「抱いて」くらいかもしれない。逆に私がコマに言うことの方が多い。「二階へ行くよ」と言うとサァッと走り出し、私より先に階段へ行く。私の足が悪いのを知っていて、階段の下で待ち、ゆっくりと階段の上へ行く。そこで、手すりに掴まりながらやっと上る私を待つ。二階の雨戸を開け、コマのトイレの始末を終わると待っていたように「遊んで」の意思表示だ。ごろんと寝転んでお腹を見せたり、私の足にじゃれたりする。たんすの上から私の肩へ飛び移る。「おんぶ」と言うと徐々に腰の方へずり下がり、おんぶの体勢になる。

 コマが庭へ出てしまうと二時間は帰らないことがあった。それで私が外へ出るたびに「待っててね」と言い聞かせる。その言葉の意味は覚えたようだ。......


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