私の小倉台日記

■プロフィール
勝山朗子(かつやま・あきこ)
  小説家、エッセイスト。房総文化懇話会会員。文学サークル『槙』同人。共著に『千葉児童文学選集』『槙・文学選集1・2・3』『何がそんなに…』など。千葉市在住。


お茶屋御殿


 小倉台の近くを沿うようにして御成街道が通っている。私の家から車なら一分のところでその御成街道にぶつかる。ぶつかった十字路には大きな看板がある。その看板には「徳川家康が鷹狩りに行くために通った道」というようなことが書かれている。

 私の御成街道に関する知識といえばその看板に書かれている程度のことで、鷹狩りは東金で行われたこと、三日三晩で造られた道であることが加わるくらいである。同じように「お茶屋御殿」といっても、家康が東金に行く途中で休まれた宿泊所というくらいしか知らなかった。そのお茶屋御殿跡が小倉台から車で五分のところにある。

 お茶屋御殿跡に隣接して建つ「お茶屋御殿デイ・サービス」に私たち夫婦は通っている。正しくは夫が週一回通所するのであって、私は夫が慣れるまでの付き添いだ。いつも、どこへ行くにも一緒の夫婦だから一人での行動は無理だろうとは思っていた。案の定「ぬり絵なんかイヤだよ」「あんたも行かなきゃイヤだよ」と駄々をこねた。

 家にいると朝から寝たままで気力喪失の状態だ。十一年前に患った脳梗塞の後遺症がそういう形で現れたらしい。医者は「なるべく外出をし、人と接すれば脳の刺激になっていい。デイサービスがどんな所か見学してくればいいじゃありませんか」と言ってくれた。四か所を見学し、そして四か所目が気に入った。それがお茶屋御殿の施設だった。

 見学したのは六月。建物の周囲の林は涼しい風が吹き抜け、私の好きなヤマユリがたくさん咲いていた。御殿跡の薬研堀や御殿発掘の柱の跡などが残っている。春にはサクラが周り中に咲き、フキノトウも出るという所だ。

 家族で運営していてヘルパーさんが手伝い、こぢんまりとしている。接し方が家庭的で気持ちがいい。私は内心、決めてしまった。大勢で過ごすより夫には静かなアットホームな所が向いている。夫に「週に一回、避暑に来るつもりでいかが?」と言うと「うん」と答えたのだった。

 先日、三回目の通所を体験した。御殿に行く日だということは分かっているのに、なかなか起きない。何度起こしても返事だけだ。行くのがイヤだというわけでもなさそうだ。ぐずぐずしている。ズボンをはくにも時間がかかる。「もう時間よ。どうしてゆっくりしているの?」と聞く。すると意外な言葉が返ってきた。「あんただけ行けば?」「私はあなたの付き添いよ」と言うと「だから、付き添いに行ってくればいい」とのこと。時々こういうすれ違いな会話になる。...


私の小倉台日記の記事全文は紙面をご覧ください。 千葉日報を購読する

千葉日報ご購読お申し込み

当ホームページの記事、画像などの無断転載を禁じます。すべての著作権は千葉日報社および情報提供者に帰属します。

Copyright (c) CHIBA NIPPO CO.,LTD. All rights reserved.