私の小倉台日記

■プロフィール
勝山朗子(かつやま・あきこ)
  小説家、エッセイスト。房総文化懇話会会員。文学サークル『槙』同人。共著に『千葉児童文学選集』『槙・文学選集1・2・3』『何がそんなに…』など。千葉市在住。


ひと晩の家出


 二月からわが家にいるネコが、飼い始めて十五日目に家出をした。

 朝、雨戸を開けた途端に飛び出した。あっと言う間の瞬間だった。いつもは片手で抱いて、もう片方の手でぎこちなく雨戸を開ける。その朝は部屋の遠くにいたので私は油断したのだった。

 さっそくネコをくれた人に電話し、近所の人たちにも「見かけたら知らせて」と頼んだ。ネコの餌を持ち小倉台七丁目近辺を呼んで歩いた。雨が降っている。大粒の雪も混じって空気が冷たい。コマという名前を付けたけれど、コマ自身は自分がコマであることをまだ知らない。覚える間もなかった。だから呼んで歩くにも「コマ、コマ…」と言いながら虚しい。仕方なく「おいで、おいで」と連呼した。「おいで」は元から知っていた言葉だ。家出の癖があるネコなのか、捨てられたのか。せっかく親切な人に拾われてシャンプーや爪切りまでしてもらって、それから私の家に飼われたというのに。

 夜になった。いつもは夫のふとんの中に入ってきたり、ストーブの前や電気カーペットの上で長ながとした姿勢で寝ていたりした。それなのにこの雨の中をどうしているのか。私が繰り返し同じことを言うので夫は「仕方ないじゃないか」と冷静だ。ネコをくれた人がいろいろ届けてくれた品がある。「返さなくちゃ」と言うと「もう少し置いておけ」と言う。「仕方ない」と言いながらあきらめてはいないらしい。

 翌朝、茶の間の外でかすかな音がする。もしや?ガラス戸を開けるとコマがいた。呼ぶと怯えた目をして後ずさりをする。「おいで、おいで」用意してあった餌を見せ、素早くつかまえた。

 ああ、それからの日々は蜜のような毎日である。・・・


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