「戦争で死ぬのは必要悪」などとフランスの皮肉屋の哲学者ヴォルテールが書いた波瀾万丈の自伝的小説が「カンディード」(1759年)。そのミュージカル版が「キャンディード」(1956年米国初演/作曲レナード・バーンスタイン)だ。日本でも度々上演されてきたが、難解と評判はイマイチ…。ところが、今回のジョン・ケアード版(1999年英国初演)は、解りやすくかつ面白い。「レ・ミゼラブル」などの演出でお馴染みのJ・ケアードは、台本を再構成する際、ヴォルテールが当時の権力者の目を逸らすためにコメディーの中に秘めた社会への痛烈な皮肉に光を当て、シリアスな面を浮き彫りにした。登場人物のキャラクターも鮮明にした。たとえば既存版の中には楽天主義者と悲観主義者を同じ役者が演じる場合もあった。すると主人公キャンディード(ラテン語で純白)が「善も悪もあるのが人生」と悟るラストが成立しにくい。そこで両主義者はそれぞれ別な役者が演じることに。また破天荒なドラマ展開が観客の肌にしっくり来るように、エピソードの順番や曲順までも変えたりしている。さあ幕開き。舞台には進行役の原作者ヴォルテール(市村正親)がひとり、旅行用のトランクがポツン…と。ヴォルテールの想像力が翼を広げ、呼応するかのようにバーンスタインの音楽が飛翔する。魔法のトランクから地球が広がり、そこに住む人々が次々と姿を現すのだった…。
≪純真なキャンディード(井上芳雄)。彼は師パングロス(市村正親・一人二役)から「すべてこの世は善」と楽観主義を学ぶ。その師の教えに従い、キャンディードは実験物理学と称し、男爵令嬢クネゴンデ(新妻聖子)と庭でニャンニャンし始める。が彼女の兄(坂元健児)に見つかり、彼は国外追放の身。一方、クネゴンデも隣国との戦争に巻き込まれ行方不明。キャンディードは恋する彼女を探しに冒険の旅に出る。世界の先々で…戦争、地震、宗教裁判、詐欺…等さまざまな困難と遭遇、悲観主義者マーティン(村井国夫)とも出逢う。苦難の末、ついにキャンディードは身の丈にあった生き方に出逢うのだった。≫
入れ子細工のトランクがイメージを掻きたてる。舞台美術はユン・ペ。そのトランクたちは場面に応じて、ベッドや墓石になったり、帆船や救命具、山や谷に変わる。感動的なのは大詰め近く、元王たち六人がゴンドラ(大から小へと6個のトランクが連なる)でベニスの運河を行く♪『国王たちの舟歌』のシーンだ。...
【メモ】6月27日(日)まで皇居前・帝国劇場で絶賛上演中。問い合せは東宝テレザーブ(電話03-3201-7777)。