御木平輔のミュージカルランド

■プロフィール
 御木平輔(みき・へいすけ) 音楽専門誌「ミュージックフォーラム」編集代表。主な著書は『ミュージカル手帳』(心交社)、「宝塚歌劇名作・傑作全演目事典平成編(講談社)、「新ミュージカル手帳」(心交社)、「ひばり模様」(七賢出版)など多数。南房総市千倉町のかやぶき屋根の家に住んでいる。


平凡だがかけがえのない日々… わが町(俳優座プロデュース) 余韻深く、心にしみる音楽劇


俳優座劇場プロデュース音楽劇「わが町」。右から土居裕子(エミリー)、粟野史浩(ジョージ)。写真撮影=落合高仁氏

 観劇後、芝居が頭の中で細切れに再現させられることに驚いた。しかも現実のとてつもない出来事が次々と重なったから…正直、戸惑った。ソーントン・ワイルダーといえば「わが町」(1938年米国初演)だ。誕生、結婚、黄泉の国というほとんどの人間が経験する人生を3幕形式で描いたものである。平凡だがかけがえのない日常が細々と描かれる一方、気の遠くなるような非日常の世界である宇宙の営みのシーンも同居しているのが、この戯曲の魅力だ。日本初演は真珠湾攻撃の1941年、文学座。その後、様々な形で上演されてきたが、今演の音楽劇は世界初か。余韻が深く、しみじみとした仕上りだ。演出は西川信廣、音楽は上田亨。翻訳は鳴海四郎。

 ≪交通が馬から車へと移り変わる20世紀初め、米国北部の小さな町。医者一家(瀬戸口郁、麻乃佳世)の息子ジョージ(粟野史浩)と、隣家に住む新聞社の編集長一家(川井康弘、花山佳子)の娘エミリー(土居裕子)は幼馴染みだ。やがて結婚。子宝にも恵まれる。だがエミリーの幸せな日々は、ある日突然に…。≫

 この物語では進行役(原康義)が重要だ。ドラマを途中で止めたり、時間を逆転させたりと、一見おせっかい。でも安易に観客に感情移入させず、客にも劇に参加させるクールなストッパー役なのだ。原はこの難役を嫌みなく好演。役者もたとえばインゲン豆の皮を剥いたり、かまどの火を熾したり、新聞も牛乳もすべて身振り手振りだ。普段着感覚で表現され、すんなりと届く。今回は音楽(演奏は一台のピアノ)がイメージを高める触媒役で実に効果的だ。色彩や匂い、味覚まで感じさせてくれる。この音楽劇には原作にはない仕立てが最初にある。序曲で、葬列から白いドレスの故・エミリーが姿を表す。つまり黄泉の国から始まり、黄泉の国へと回帰してゆくことをさりげなく描写。曲もオープニング♪『夜明け』(作詞=宮原芽映)と2幕の開幕曲、エンディング♪『永遠不滅』は同じだ。

 【メモ】3月に六本木の俳優座劇場で上演。作品の問い合わせは電話03-3470-2880)。


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