久しぶりに清清しい涙がこぼれた。愛と平和を声高に訴えるわけではない。さりげない。だからこそ強く心に沁みる。スイス人のアンリ・デュナンが命がけで赤十字を創設して150年。その生涯をミュージカル化したのが本作だ。デュナンの願いも空しく、今も戦火は止むことはない。少々のフィクションを加えてはいるが、言ってみれば宝塚らしくないシリアスな作品が誕生した。もうすぐ劇団創立100周年を迎える宝塚。今また、新しいジャンルに敢然と挑戦している。作・演出は、あの「ベルサイユのばら」の植田紳爾である。
≪1859年、独立を願うイタリアはフランスと同盟を結び、オーストリアと熾烈な戦いを繰り広げていた。ソルフェリーノは激戦地。その戦場を通りかかったのが旅行者アンリ・デュナン(水夏希)だった。死屍累々の光景に呆然となる彼は、野戦病院でさらに衝撃を受ける。イタリア軍師団長(未来優希)や参謀長(音月桂)の指揮の下、看護婦アンリエット(愛原実花)は負傷兵を選別していた。同盟軍の負傷兵は院内へ、敵軍の捕虜の負傷兵は野ざらしに…。彼女はオーストリア兵に両親が殺され憎悪の塊となっていた。人間の命に敵味方はないと主張するデュナンに対し、生か死かの戦場で青臭い正義感など迷惑だと彼ら。そんなデュナンに手を差し伸べたのが、アンリエットの恋人で医師のエクトール(彩吹真央)だった。ふたりは密かに捕虜の負傷兵たちに手当を施した。だがその中の何人かが脱走を図ったことから、二つのグループの溝はいっそう深まるのだった。その上、戦況は悪化し死傷者は溢れた。ある月夜の晩、捕虜の少年兵(真那春人)が吹くハーモニカの音色が野戦病院に流れた。♪『アベマリア』だった。その懐かしい音色は敵味方の国境を超えた。理想と現実の狭間で悩んでいたデュナンに、途方もない考えが浮かんだ…≫。
プロローグは意表を突く。「ベルサイユのばら」を思わせる白一色の世界で始まり、一転、血なまぐさい戦場へ。オーソドックスだが鮮やかな展開だ。この幕開けにメッセージが潜んでいる。白の世界が赤に染まり、ラストの布石となる。その感動のラストシーンはこうだ。デュナンは荷車に敵の負傷兵をも乗せて戦場を横切ろう…と。しかし、師団長らに見つかる。国家に忠実な参謀長は射殺を迫る。デュナンは「一粒の麦がもし地に落ちて死ななければ、それは一つのままです。しかし、もし死ねば、豊かな実を結びます」というイエスの言葉を呟き、血で十字架を描いた白旗を掲げる。自分の命を犠牲にしてまで人を助ける、その愛に打たれた師団長は、敬礼を持って応える。荷車は静々と戦場を横切る-。名場面である。また、敵味方を超えて心を繋ぐ♪「アベマリア」の合唱シーンも印象深い。...
【メモ】4月25日(日)まで東京宝塚劇場で絶賛上演中。問い合わせは同劇場、電話03-5251-2001。