本の贈り物

■プロフィール
藤原あずみ イラストレーター。1958年長野県安曇野市生まれ。佐倉市在住。主な作品は「野あそびいっぱい 植物編」(萌文社、中山康夫著)、「お話とあそぼう」(一声社、末吉正子著)など。「第18回小さな童話大賞 山本容子賞」、「第9回ミツバチ絵本コンクール佳作」、「第48回千葉文学賞」など受賞。


「孤独」 『島ひきおに』


イラスト 藤原あずみ

  大きな柚子を戴いた。赤ん坊の頭ほどの大きさで、ごつごつと荒い肌をしている。獅子柚子、又は鬼柚子とも言う。柚子と呼ばれるが、本当は文旦の仲間らしい。鬼と言う形容がぴったりの異形のご面相だ。とにかく大きくて鮮やか。まわりの空気までが、明るい春の色に染まる。お寺から戴いた「立春大吉」のお札と一緒に、玄関に飾った。

 暦は如月になった。春とは名ばかりで、まだまだ寒い。だが、冬枯れの風景の中には、春の色がちらほらと混じっている。日向に立てば、濃さを増した陽射しが背中をとろかす。梅の花、蝋梅の花、地面に張り付いて咲くタンポポ。木々の枝には、ツンと尖った小さな芽。どれも皆、一陽来復の嬉しい兆しだ。寒気の中で、「春」と口にすれば、光を感じる。「福」と唱えると、いい事がありそうな気になる。節分の豆まきの声は、禍を福に転じるまじないであり、冬から春への呼びかけでもある。「鬼は外」の鬼とは何だろう。鬼--一説には「隠(おぬ)」がなまって「鬼」になったとある。もともと鬼には姿が無いのだ。角を生やし虎皮の褌をつけた鬼の姿は、平安時代に確立したものらしい。大津絵のユーモラスな鬼、百鬼夜行の妖しげな鬼、風格のある俵屋宗達の雷神……様々な鬼が思い浮かぶ。隠れている鬼を目に見える姿にして対峙する事で、人は災難や畏れから自由になろうとしたのだろう。

 人の心の中には、猜疑心、嫉妬心、臆病、傲慢、怠惰……数え切れないほどの鬼が潜む。心の奥底に隠れているこれらの鬼こそが恐ろしい。目に見えない鬼をなだめたり、押さえつけたり、福に転じさせたり。人は心の中で、いつも鬼退治をしているようなものだ。

 考えてみれば、子ども時代に私達は、数え切れないほどの鬼遊びを体験する。遊びを通して、私達は鬼の孤独と強さを学ぶのかもしれない。

 鬼を描いたこんな話がある。絵本『島ひきおに』では、鬼と人の立場が逆転している。この物語の鬼は弱者であり、人の心に棲む偏見とエゴイズムが「鬼」として描かれる。

 小さな島に住む寂しい鬼が「おーい、こっちゃ来て遊んでけ」と海に向かって呼びかける。だが、鬼の所へ遊びに来る者はいない。或る嵐の晩、漁船が迷ってきた。鬼は漁師達をもてなし、一緒に暮したいと持ちかける。・・・

 

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