ページを繰る。
笑顔がある。
ページを繰る。
無私の愛がある。
ページを繰る。
明日への祈りがある。
この本はダウン症による合併症のため、22歳で早世した愛娘の生きた証しと家族愛を収める。涙をこらえて、式場カメラマンの経歴を持つ武藤は、目の前の尊い命にただひたすら愛機を向け続けた。この1枚が最後になる…そんな不安を撮ることで振り払う。慈愛深い作品群だ。
長女芳恵さん(よったん)は誕生直後、心臓病を合併するダウン症と診断された。「3歳までもつかどうか」と非情な宣告。第1子誕生を心待ちにしていた夫妻は幸福の絶頂から不幸のどん底に突き落とされた。絶望、困惑、苦悩、何度も家族会議を開いた。その時、ある本が啓示を与えた。「障害児はきちんと育てられる親にしか神様が与えない」。武藤は運命を受け入れた。贖罪(しょくざい)から「子供はもう二度とつくらない」と決め、誕生から2カ月後、ペンタックスK2を手にした。その覚悟の表れが、巻頭を飾る家族の集合写真だ。
ありがちな病気を前に出して、同情を引こうなどとのこびはまったく見られない。娘に注ぐ両親の無私の愛。ただ、よったんの生きた証しだけが丁寧に残されている。お食い初め、ひな祭り、入学式など、35ミリ判の機動力を生かして行事を追っていく。「よったん!」。そう呼び掛けたのであろう。声に応えたカットには、常に天真らんまんの笑顔がある。
両親の明日への祈りをあざ笑うかのように病魔は娘の体をむしばむ。4回の大手術。夫妻は一喜一憂を繰り返した。感情が激しく起伏する毎日だったが、武藤は「この子からエネルギーをもらって、楽しい生活を送ることができた」と柔和な目で話した。
芳恵さんは03年10月9日、骨髄の病いで夭折(ようせつ)した。それから5年半、武藤は娘との約束だった作品群を編んだ。この本によって、よったんの命を永遠にしたのである。(文化部 安原直樹)