写真集の狩人

人生を左右する選択の好機 「東京Y字路」横尾忠則著(国書刊行会・3800円+税)


 分かれ道に立つ。保守の右に行くか革新の左に行くかで、のちの運命は大きく変わる。人は誰しも人生において二者択一を迫られる重大局面に出くわす、と想像を飛躍させる東京Y字路のコレクションだ

 本書の以前に画集「Y字路」(06年、東方出版)を出しているが、画家はアトリエから街に飛び出し、絵画の創造的画面を写実的画面に変えたのだ。広角レンズ特有のゆがみで、画面中央の商業ビルや民家、橋脚などの建造物が上すぼみになっており、それが足元のY字路の動線と相まって、私たちの目と心を自然に奥へ奥へと向かわせる。と同時に左右に引っ張られる両極の力も感じる。

 作品はこの同一構図を最後まで繰り返す。つまりYの線が交わる終着点を決して見せない。政治も経済も先行き不透明な時代、精神の閉そく状況を打開する場面を提供して、その選択から始まる物語を書かせようとする。「物語の幕が開く瞬間の登場人物不在の舞台を見せたかった」(あとがきより)。多くの記号が隠されており、神のみぞ知る人生の奥深さを暗示しているとの解釈も成り立つ。

 自著などを通じて芸術鑑賞において、理解よりも感応を第一義に訴える。それは作品が持つパワーやエネルギーといったものだ。要するに専門家がしたり顔で弁舌する知的分析を真っ向から否定する。著書「名画感応術」(97年、光文社文庫)の中に現代美術のシンポジウムで某ドイツ人評論家にかみついたエピソードを記す。「あなたの説明に従うことなく、これらの作品がぼくの感情に訴えてくる絵画本来の力によって素晴らしいと思い、ぼくの魂を自由や解放に向けてくれます」と。

 こうした鑑賞眼で本書のページを繰ると、魂を揺さぶられる情報が見える。ストレートに意識の中核を打ち抜くのだ。<進路の選択権はあなたにある>。芸術家を媒介にした神の啓示であろう。ただし、その選択の好機は種々多用なY字路を現出させることで、無限にあるとする横尾の優しさをみるのだった。(文化部 安原直樹)


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