菅原文太主演の映画「トラック野郎」のヒットによって1970年代、デコトラ・ブームが起きた。あれから30余年。世間の常識の外で今もそんな野郎たちは生息していた。といっても、この本はただの愛車拝見ではない。車に投影されたトラッカーの内面に鋭く迫る。そこから人間という存在が持つ悦楽と悲哀が見えてくるのだ。
撮影の端緒はフリーになった24歳の時のトラック助手のアルバイト。ダイアン・アーバス(アメリカ、1923-71年)にあこがれ、ドキュメンタリーに挑戦したかった田附は「社会から外れたトラッカーの生き方にゾクゾクした」と当時を振り返った。だが、その思いを1冊にするには9年の長きを要した。トラックのイベント会場で、狙いを定めたトラッカーを東北から関西まで追跡取材したからだ。結果、万単位のカットが積み上がった。
編集の妙に感嘆する。巻頭の「交差点」は行き先が依頼主次第のトラッカーの不安の、巻末の「駐車場のトラック」はありふれた日常に無事に戻れた安堵(あんど)の暗喩だろう。中盤は派手な絵柄と満艦飾の車体、自慢気なトラッカーのカットなどが濃密に繰り返される。撮影にはハッセルブラッドと60、80ミリの2本のレンズを使った。短玉で被写体に肉薄するが、上からのぞき込む撮影スタイルは威圧感を与えない。意図的にアンダーにしたスクエアサイズの画面には、闇の中から対象だけが浮き上がる。
夜の水たまりに映った電飾の作品が特によい。1000万円超の装飾の愉悦に反し、個人経営の運送業ゆえの内面の苦悩がにじむ。日本人ならではのウエット感。彼らにとって車は単なる輸送のための箱ではない。自己を投影した巨大なキャンバスなのである。
田附は06年から東北地方の風俗をカラーで撮影している。モノクロ写真集では故木村伊兵衛の「秋田」(ニッコールクラブ・非売品)などあまたの傑作があるが、カラー写真のニュー・ドキュメンツ誕生が今から待たれる。(文化部 安原直樹)