どこか物憂げな子どもたちがいる。ホンマのカメラはひょうひょうとその不機嫌な顔を写していく。本書は、子ども=笑顔と決めつけたステレオタイプの意表をつく1冊である。
ホンマは日大芸術学部を中退し、広告制作会社に入社。在籍6年で英国のファッション誌などに活躍の場を移す。帰国後は写真集「TOKYOSUBURBIA」で第24回(1998年度)木村伊兵衛賞に輝くなど、90年代作家を象徴する存在として国内外から高い評価を得ている。
日本の写真の転換点とされる90年代より前の作家は、被写体に迫ることで物の深層をのぞこうとした。反してホンマは表層を淡々ととらえる。この相違は子どもを被写体としたドキュメンタリー写真にどう影響を及ぼすか-。ホンマが射止めた大賞の木村伊兵衛(1901~74年)が、信州・上田で写した満面笑みの子どもたちの傑作スナップ(49年11月撮影)。農作業を終えた直後だろうか。かごや麻袋を背負って、くわなどを持った十数人が、田舎の小道の土手に腰を下ろしている。名手のライカはそんなホッとひと息の瞬間を狙った。にもかかわらず、すべての顔がレンズに向いて、しかも会心の笑顔なのだ。両者の間に何らかのコミュニケーションがあったことは想像にかたくない。多少の演出はやむを得ない、とする立脚点である。
一方、本書はまったく対話の形跡をとどめない。つまり一切の演出を認めないのだ。その意味でホンマの姿勢こそドキュメンタリー的性質には求められる。建造物の壁のくすんだ人工色をバックに、木の面をかぶって棒をのんだように子どもが毎ページ立っている。表紙のカットからして、幼子が目線を下に落とし、生気が感じられない。媚(こ)びを売らない子どもと記録する作家の距離は、巻末までほぼ均等に保たれる。
初版は約9年前。子どもたちは中高生に成長しただろう。いま社会問題となっている若者のコミュニケーション不全。ホンマの作法は、まさに将来のリアルをとらえていたのである。(文化部 安原直樹)