「何かを調べる人や追求している人は、(中略)キーブックを何冊も何十冊ももっている」。名編集者の松岡正剛さんは著書「多読術」(ちくまプリマー新書)にこう説く。キーブックをもとに読書ツリーが枝葉を伸ばす。本書はまさしく世界の写真ツリーの結節点となる1冊である。
伊・コントラスト社が発行した本の日本語版。世界の有名写真家(古くはニエプス、ダゲールからブラッサイ、ロベール・ドワノー、荒木経惟など)の代表作250点を収める。その写真群をルポルタージュ、戦争、ポートレート、ヌードなど12分類。解説と撮影者の略歴を付記する。
写真史を振り返る。1839年、ルイ=ジャック=マンデ・ダゲールがダゲレオタイプ法を発明。これが世界最初の写真術というのが定説だ。その後のネガポジ法で複製が可能となり、印刷技術の発展で、写真は広告宣伝メディアの地位を確立。モノクロ、カラー、デジタルと革新を遂げつつ、170年余の道を歩んできた。「写真の歴史はストレートのプリント対手を加えたプリント、絵画的写真対記録写真といった一連の二元的な論争で区切られる」(スーザン・ソンタグ「写真論」晶文社)。つまり、絵画と比して後発の写真は客観性と主観性の間を揺れ動きながら、芸術としての存在価値を世界に認めさせたのだ。それは挑戦の歴史であり、足跡が本のページに刻印されている。
写真家の“自己表現”がワンカットとなって、衝撃と感動をもたらす。たとえば戦争を骨子とした写真でも、ロバート・キャパの「共和軍兵士の死」(1936年)は絶望を、W・ユージン・スミスの「楽園への歩み」(46年)は希望を伝えるのだ。瞬間的かつ永続的な印象の面で、写真は他のメディアを圧倒する。被写体選択のすばらしさは言うまでもない。ポートレートの部には一時代を築いた絵画、映画、音楽の芸術家たちの味わい深い顔が並ぶ。そのフォト・セッションは最輝度を放ち、光を浴びた読者のツリーがさらに枝葉を伸ばすことだろう。(文化部 安原直樹)