短編「鉄道員(ぽっぽや)」は、処女小説集『鉄道員』(1997年4月・集英社)の冒頭に収録された一篇。他に「ラブ・レター」「悪魔」「角筈にて」「伽羅」「うらばんえ」「ろくでなしのサンタ」「オリオン座からの招待状」が収録されている。
「ラブ・レター」(初出「オール讀物」1996年)」は本県の千倉に出かける話で、千葉県と関係深い話となっている。
あらすじは歌舞伎町で裏ビデオ屋の店長をしていた吾郎が拘留され釈放。妻が死んだと知らされる。妻と言っても名ばかりで、売春のための出稼ぎ外国人と戸籍上の夫婦となっていたのだった。会ったこともない妻・白蘭は吾郎にラブレターを残していた。
妻の死体を受け取るため吾郎が組織のサトシと出かけていくのが千倉である。
さびれた内房線の車内の様子や千倉駅を、[3]で次のように描写している。
乗客のあらかたは木更津で降りてしまった。コンビナートの眩ゆい光が遠のくと、列車は真暗な海に沿って走った。/館山で最後の客が降り、終着駅の千倉のホームに立ったのは吾郎とサトシだけだった。細かな春の雨が、煙のようにサーチライトを巻いていた。/小さな待合室にはひとけはなく、ベンチの上で灰色の猫が眠っていた。午後八時という時刻を、吾郎は怪しんだ。/タクシーが一台だけ止まっている。運転手はハンドルに寄りかかって客の顔色を覗きみた。
雨の駅前にはほんの何軒かの飲み屋のネオンが、ぼんやりと灯をともしているきりだった。かすかに潮の匂いがした。
走り出すと、すぐに駅前の家並は尽き、道の両側は畑と雑木林ばかりになった。緩やかな丘陵を海に向かってまっすぐに下る。闇の涯に流星のようなヘッドライトが行き来している。そこはたぶん海岸通りで、松林の向こうは海なのだろう。(ラブ・レター)
組織に頼まれ、金儲けに籍を入れてやった妻であるにも関わらず、自分の不幸を恨まず、吾郎への感謝をこめた熱烈なラブレターがしたためられていた。読むうちに吾郎は白蘭が本当の妻であったような不思議な錯覚に陥ってゆく。......