名優・高倉健の主演で話題をさらった映画「鉄道員ぽっぽや)」は、1997年に第117回直木賞に輝いた浅田の同名小説(初出『小説すばる』1995年)を、映画化したもの。共演者の西田敏行、中井貴一、宮沢りえが良い味を出していた。
舞台は炭鉱町として栄えた北海道の幌内駅で、小説では幌舞駅の名で描かれている。石炭積み出しのため幌内-札幌-小樽をつなぐ鉄道が敷設されたのは明治13年。当時は東京-横浜間、京都-大阪-神戸間が開設されていただけで、3番目の鉄道として莫大な国費が投入された。
時代が変わり、廃鉱となった後、滅びゆく路線を走る最後のジーゼル・キハ12形気動車、そしてそれらの運行を守り抜いてきた最後の生え抜きの「ぽっぽや」がこの小説の主人公だ。
背景として実際の地をモデルとしながらも、ぼかして抽象的に描くことで、読者の心中に潜む懐かしさを連想させ、哀愁ただよう独特の世界に夢を醸してくるのが浅田作品の特徴。
「鉄道員」も幌内駅を舞台としながらも、読者の心に漂うどこにでもあった古い駅を連想させるとともに、古き良き時代を生き抜いた、かつての男の生き様を浮かび上がらせている。
定年も近い乙松は幌舞駅の駅長。粉雪の降る零下20度の日にも指差喚呼を忘れず、国鉄外套の肩に雪を積もらせ、濃紺の制帽の顎紐をかけ、時間に遅れて到着する列車を几帳面にホームの先端に立ちつくして待っている、職務に忠実な叩き上げの「ぽっぽや」。職務に誇りをもって働く乙松は「ぽっぽや」として生きる以外に生き方を知らない誠実な男で、皆から鉄道員の手本として慕われている。
大正時代の建築を残す幌舞駅で仲間からの差し入れでささやかな正月を迎えた乙松は、女子を小学生で亡くし、妻も一昨年に亡くして淋しい一人暮らしを続けていた。妻の臨終のとき、危篤の知らせをうけながらも、幌舞の駅の最後の灯を落としてから乙松は駆けつけた。......